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HARU ハル Okhotsk Tourism Magazine
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 (前列左より)渡辺美玖さん(大阪府)、直江 直さん(三重県)、小林真希さん(和歌山県)、空野綾乃さん(和歌山県)

 (後列左より)由田みゆさん(石川県)、原  端葵さん(奈良県)、大場亜矢子さん(兵庫県)

いのちの輝きをつなぐ ―アザラシの保護と飼育―

昨年の春、一冊の本『寝ても覚めてもアザラシ救助隊』が出版された。著者は紋別市にある国内唯一のアザラシ専門の保護施設「オホーツクとっかりセンター」で10年間、飼育員として勤めていた岡崎雅子さん。「アザラシ愛」に満ち溢れたこの本を読むと愛くるしいアザラシの持つ魅力に強く引き込まれると同時に、保護活動から見えてくる様々な問題への気づきも与えられる。今から約40年前の1987(昭和62)年に民家の庭先を利用し4頭の飼育からスタートしたセンターには現在、27頭のゴマフアザラシとワモンアザラシが保護・飼育されている。最近はセンターの飼育員が毎日、SNSで発信するアザラシの動画や写真が大きな話題となり見学や体験に訪れる観光客や子どもたちが増えている。アザラシの持つ魔法のような魅力の秘密、そして漁業と流氷観光で知られる人口2万人の紋別市に、保護施設が存在することの価値は何かを探りにアザラシランド展示飼育主任の渡辺美玖さんとアザラシシーパラダイス展示飼育係長の大場亜矢子さんを訪ねた。

飼育員7名全員が北海道外出身の女性

オホーツクとっかりセンターは保護と展示・飼育を行う「アザラシランド」と、2015(平成27)年にオープンしたアザラシへの餌やりなどが実体験できる「アザラシシーパラダイス」がある。また、この施設で保護と飼育に携わる飼育員は全員が女性であり、しかも北海道外の出身者である。厳冬期には-20℃まで気温が下がり、流氷原を渡ってくる冷たい風にさらされるオホーツクの地で、アザラシの保護と飼育に携わろうとした彼女たちの動機やきっかけは何だったんだろうか。

渡辺さん 大阪生まれで間もなく働き始めて4年目になります。動物全般が好きで専門学校のオープンキャンパスに行き水族館の飼育員になれたらと入学し、海獣哺乳類を専攻しました。卒業時の夏に、求人票のあった紋別市で実習をさせてもらい、その時に親身に指導してくれた岡崎雅子さんから誘っていただいたのがきっかけです。多人数ではなく少人数で働ける環境も、私には向いており良かったと感じています。


大場さん 兵庫県出身です。元々はイルカのトレーナーになりたくて海洋系の専門学校に通っていました。かなり人見知りで実習先でも上手くいかず悩んでいたところアザラシの採血を見学させていただき、初めて自分から飼育員さんにアザラシについて質問をすることができました。イルカばかりに興味があった私でしたが、その時から「もっとアザラシについて知りたい、可愛い」と思うようになり、紋別市の「とっかりセンター」の存在を知り実習させていただいたのが働きだしたきっかけです。

野生回帰とアザラシを取りまく環境

当初、保護されるアザラシは漁網に迷い込み混獲されケガをした個体がほとんどだったが、最近は衰弱した子どもの保護が増えている。また保護したアザラシの生存率は70%ほどで、飼育員にとっては常にアザラシの生と死に向き合う日々でもある。

渡辺さん 仕事を通しての喜びは、保護したアザラシが回復して元気を取り戻し、海にリリースできた瞬間です。野生復帰に向けた訓練や飼育で愛着が湧きジレンマはあるのですが、それが保護活動の本来のあり方ではないかと考えています。


大場さん アザラシシーパラダイスでは餌やり体験を楽しんでいただき、この喜びの体験を通じて少しでもアザラシのことを知り興味を持っていただけるよう心がけています。それ以前に、センターの施設は限られた環境ですが、アザラシたちが健康に安全に暮らせることを一番大切にしています。


渡辺さん 近年、保護されるアザラシの数が減る傾向にあります。少ないことは良いことですが、その裏面では流氷の上で出産するアザラシと流氷の減少や餌となる魚の関係などで命の誕生自体が厳しい環境にあるのかと気になります。
また、生物との共生という点では、時には害獣として捉えられるアザラシのリリースや保護の通報など地元漁師の皆さんの理解と支えがあります。


大場さん アザラシの保護と飼育を通して伝えたいことは、地球温暖化は決して他人事ではないということです。海氷の上で出産と子育てをする種類のアザラシにとって、海氷の減少は致命的な問題です。一つの種が危機に陥ると周りの均衡も崩れます。少しでもアザラシを通して環境問題にも関心を持ってもらいたいと思い、出来る限り発信に努めています。

◇  ◇  ◇

昨年12月、暮れも押し迫った27日に保護されていた1頭のアザラシが発信機を付け海にリリースされた。まだ不明のことも多いアザラシの生態や環境について近年、大学や研究機関との共同研究が取り組まれている。渡辺さんは、「来場や体験、そしてSNSを観たお子さんが、将来、飼育員になりたい」という声に励まされるという。また、将来は助けた命をつなぐ保護個体間の繁殖が夢とも語ってくれた。そんな、若い飼育員を温かく見守る大場さんは、「アザラシに関わりたいという思いや夢を持って挑戦しにきた若い世代を応援していきたい。そのためにも自分自身がもっと知識や技術を身につけなければ」と。
保護アザラシのリリースの日、「寝ても覚めてもアザラシ救助隊」の著者で獣医でもある岡崎雅子さんと久しぶりにお会いできた。彼女のやさしい眼差しと微笑みはリリースされたアザラシとともに、若い後輩の飼育員の皆さんに向けられていた。
「海は命のゆりかご」と言われるが、この流氷の地紋別市に国内唯一のアザラシ保護施設がある事の根源的な価値は、「いのちの輝きをつなぐ」7名の女性飼育員と愛らしいアザラシたちの存在の持つリアリティにあるのかもしれない。

*参考文献
「寝ても覚めてもアザラシ救助隊」岡崎雅子(実業之日本社)2022
「オホーツクの生態系とその保全」(北海道大学出版会)2013
「白い海、凍る海」青田昌秋(東海大学出版会)1993

*オホーツクとっかりセンターのご案内
〒094-0031 北海道紋別市海洋公園1番地
営業時間 10:00~17:00
入場料 ・アザラシランド (餌代協力費等)
       大人200円 小・中・高100円
    ・アザラシシーパラダイス
       大人500円 小・中・高300円
問い合わせ先 オホーツク・ガリンコタワー㈱
 ℡ 0158-24-8000  https://o-tower.jp/sp/

\この記事を書いた人/

古谷一夫/訓子府町生まれ。大阪で学生時代を過ごし、1976年に社会教育主事として清里町役場に勤務。40歳で教育行政を離れ、以後、企画、財政、総務などの地方行政に携わり退職。オホーツク・テロワール創立メンバーで、現在は理事・HARU(ハル)共同発行人。

オホーツクの人々

オホーツクに暮らす人々。その活動と想いをお伝えします。

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​秋山 恵美子さん

濤沸湖の多様性がもたらす豊かさと人の営みを見つめる

小学校時代はまだ板橋にも雑木林が残っていて、母からは「栗の木は折れるから危ない」と言われていたので、それ以外の木に登っていました。カエルの卵を取りにススキの原をかき分けて入ったり、そんな自分の楽しい場所・遊び場がどんどん潰されていくのは「何でだろう」と思っていました。中里の村では祖母から「この畑の下には東京まで電気を運ぶ配管が埋まっている」と聞かされて「東京に住む自分も自然を壊しているのかなぁ」と複雑な思いに…

編集部より

HARU5号は国内唯一のアザラシの保護施設で、保護と飼育に携わる女性飼育員の視点を通してオホーツクの自然が培っている本質的な価値と「いのちの輝き」とは何かを考えてみました。オホーツクの2月は流氷観光シーズンを迎え、今年はコロナ禍が一定のおさまりの兆しのなかで3年ぶりに外国人を含め多くの観光客でにぎわいを取り戻しつつあります。
「オホーツクとっかりセンター」にも流氷観光船ガリンコ号の乗船で流氷海を体感した観光客の皆さんが多く足を運び、愛らしいアザラシとのふれあいを楽しんでいます。飼育員の二人が語ってくれたように、流氷や保護されたアザラシを通して多くの皆さんが自然や環境問題への関心を深めてもらうことを願うとともに、このオホーツクで暮らしを営む私たちこそが、この「いのちの輝き」を絶やさないために何ができるかを考え、学び、行動していくことが大切ではと。(古谷)

​HARU vol.05

2023年2月発行

 

発行/一般社団法人オホーツク・テロワール(代表理事 大黒宏)発行人/古谷一夫・長南進一
編集・デザイン/江面ファーム(江面暁人)
取材・写真/古谷一夫
写真提供/オホーツクとっかりセンター、実業之日本社

 

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